珈琲抽出にとって水は最も重要です。一杯の珈琲の99%が水なのですから。今やどこのコーヒー店に行っても見かけるようになったアメリカのエバーピュア社製の浄水器は主に水道水の有害物質や塩素などを濾過してくれますが、カートリッジの種類によって用途は異なります。通常のエバーピュアカーボンの場合は水の硬度は変わりません↓。
しかし、最近のブリュワーズ大会などでは単に浄水するだけではなく純水にミネラルを添加してカスタムウォーターを作ったり、あらかじめナトリウムウォーターやカーボン水、水素水などを選んでの抽出大会も見かけるようになりました。
そのほか、コーヒーセミナー用として海外製の水質調整キット*を使ったり、店舗で出す場合は南アルプス天然水など市販のミネラルウォーターを使う方が多いようです。しかし、いちいちMgやCaを微量計算計量調合したりミネラルウォーターや水質キットを買ったり、ウォーターサーバー契約をしたり煩雑でランニングコストもかかります。
*水質調整キット
Third Wave Water
クエン酸カルシウム・硫酸マグネシウム・ナトリウムが完璧なバランスで配合された粉をいつもの水に混ぜるだけという粉。
Aquacode COFFEE BREWING WATER
珈琲にとって理想の蛇口
カスタムウォーターを作る一番の解決策としては、水の主要ミネラルであるカルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムを意図して含有量を測定調節し、蛇口から出てくるようにするのが望ましい。
そこで、かつて水関連商品開発会社での経験や水道設備施工経験を活かして珈琲店にとって夢のような浄水システムを作ることに成功しました。構想3ヶ月、施工3週間かかる実験的工事(まだ増設工事中)でした。
多重カーボン濾過などの浄水で多系統の硬度調整水や超軟水、純水、ナトリウム水が作り出せるザグリ珈琲独自の浄水システム。設置やフィルター交換などメンテナンス性や日々の業務内での実用性を重視したミニマムな水回り設計となっています↓。
独自に構築したナトリウム水とカルシウム・マグネシウム水、シークレット水の装置↓。
完璧なバランスのミネラルを目指して
蛇口をひねると様々な硬度の水が出てくるようになりました!GHはリアルタイムモニタリング、各種微量ミネラル計測。カルシウム、マグネシウム含有量がわかると正確な硬度がわかります。カルシウム・マグネシウム・ナトリウム配合を完璧なバランスに近ずける実験を行うことも手軽にできます。
試薬や水質調整キットなんか使わなくてもカスタムウォーター作りが思いのまま↓。
水の硬度
水の硬度は次の計算式で求められます。
硬度(mg/L)=Ca(mg/L)×2.497 + Mg(mg/L) × 4.118
カルシウム塩・マグネシウム塩の量を炭酸カルシウム (CaCO3) の量に換算するアメリカ硬度。硬水、軟水の分類は次の通り。
WHO定義:60mg/l未満=軟水 60-120mg/l=中硬水 120-180mg/l=硬水 180mg/l以上が非常に硬水
日本の定義:100mg/l未満=軟水 101-300mg/l=中硬水 300mg/l以上=硬水
硬度計算するのが面倒な人はカシオのサイトに自動計算ページがあります。硬水、軟水の分類はWHO(世界保健機構)に準拠しています。
https://keisan.casio.jp/exec/system/1191399396
水のpH
硬度はクリアしましたので次はpHです。数年前は還元水素水精製器やミドボンを使って炭酸水を作っていて水のpHも測っていましが最近は測定値に疑いを持つようになり測定機器の精度や校正を重視しています。測る検体の水温によっては2ポイントもズレることもあります。
不純物を含まない純水のpH値は理論上7.0となり、メーターで測るとほぼpH7を示します。超純水の世界になってくると正確なpHは、水が大気中の気体を吸収しやすい理由から、またEC電気電動率も関係してくるところから計測が難しいようですが珈琲用の抽出水程度であれば今現在できているpH7の純水で全く問題ないはず。
水がイオンに解離している反応を式は次の通りです。
H2O→H+ + OH–
電解質を含まない純水は平衡状態を保ちこの電離平衡を、平衡定数Kを用いて質量作用の法則で書き直すと次のようになります。
K=[H+]・[OH–]/[H2O]
この式から水の解離定数KWが導き出されます。
[H+]・[OH–]=K・[H2O]≡KW
次に、温度に対する水の解離定数を表に示します。
参考文献:A.W.Michalson;Chemical Engineering Process,64,67(1968)
数学的に表現すると、pHは次のように定義されます。
pH=-log [H+]=-log√Kw=-1/2 log Kw
ここで25℃のときのpHを表と照らし合わせて計算すると、以下の式になります。
pH=-1/2×13.996=6.998≒7
つまり、pH値は「7」になるというわけです。
pHを意図的にコントロールする
最終的に仕上がる珈琲のpH値はほぼ5.xx前半の酸性値を示します。アルカリ性でも酸性でも抽出液は一定の酸性値になることは実験済みですが、今度は一旦作ったpH7の純水をそれぞれ酸性、アルカリ性に傾けるフィルターを自作してpH調整をします。天然水のミネラルウォーターは取水値の自然環境によってpH値は変わるため人工的に天然環境を作ってみようという実験です。
2025年1月21日時点でのまとめでした。
実験は続く…
焙煎士は水に合わせて焙煎度合いを変えるのが一般的ですが、以上、焙煎によっても水を変えることができるようになるのです。同じ豆での3種の抽出テイスティング。豆によっては驚くほど味が変わります!
水について知りたい方はザグリ珈琲のカッピング・フレーバー教室へ。抽出教室や焙煎教室もございます。