【重要】コーヒー抽出における水の最適化

【重要】コーヒー抽出における水の最適化

プロ向けカスタムウォーター理論と処方

コーヒー抽出における「水」の設計は、いまや高度な味覚調整技術の一つです。TDS、硬度、アルカリ度、ミネラルバランス──その一つひとつが酸・甘味・苦味・余韻に影響を与えます。

カッピング

本ページでは、バリスタや焙煎士、研究者を対象に炭酸水素塩やリン酸塩によるバッファリングの制御Mg²⁺やCa²⁺が官能評価に及ぼす影響、さらには抽出対象のプロファイルに応じたミネラル処方例まで、実践的かつ論理的に解説します。「水を変えれば、コーヒーが変わる」──その本質に、科学と経験で迫ります。精密なミネラル計測ができる実験設備だからこそできるザグリ珈琲だけのコンテンツです。
apaxwater

*このページは水やブリューイングの基礎的な知識が乏しいと読み解くことが難しいと思います。当サイト内には「東京都の水の硬度」、「ブリューイング」、「珈琲の酸」など、他所にはない有益なコンテンツをいくつも無料公開しております。中には何度も読んで紙に書き起こしてからいらっしゃるお客様もございます。そうした勉強熱心の方とは話が通じますので歓迎いたします。

浅煎りのコーヒーを手軽に美味しく抽出しよう!

RO純水をベースに話を進めます。ザグリ珈琲の浄水設備では様々なミネラル水を作ることができます。全てのミネラルがゼロのRO純水を基点に、カルシウム水、ナトリウム水、カリウム水を作り出し、純水で希釈することによりターゲット濃度のミネラルカスタムウォーターを生成しています。
カスタムウォーター

しかし、ここから話すことは、純水または蒸留水などのミネラルが全く入っていない水をベースに、食品グレードもしくは試薬品グレードの試薬を混ぜていく手法です。

💧マグネシウム添加の目安量

想定するターゲット硬度

  • **Mg硬度として10〜15 mg/L(ppm)**程度
    → 浅煎りの明るさ・果実感を出しつつ、えぐみを抑える範囲

使用するマグネシウム源の例

  • 硫酸マグネシウム七水和物(MgSO₄·7H₂O)
レシピ(1リットルあたり)
  • 0.10g〜0.15g / L(100〜150mg)

これはMg²⁺として約10〜15mg/Lに相当します。

🔍計算根拠(簡略)

マグネシウム

  • 硫酸マグネシウム七水和物のモル質量:約246.47 g/mol
  • Mg²⁺の原子量:約24.31 g/mol
  • つまり、**1gのMgSO₄·7H₂Oに約0.098gのMg²⁺**が含まれる
  • → 0.10g添加 → Mg²⁺約9.8mg/L
    0.15g添加 → Mg²⁺約14.7mg/L

☕補足:東京の水道水+一般的なカーボン浄水に多く含まれる「カルシウム」は除外

  • このMg硬度帯は、浅煎りエチオピア・ケニアなどの果実系に適しています。
  • TDSを高めすぎないためにCa成分は加えない or 微量(1〜2 mg/L)にするとバランス良好。
  • このレシピではNa⁺やK⁺、普通の水道水に最も多く含まれるカルシウムはこの用途では不要です。

なぜNa⁺やK⁺が“不要”なのか?

1.抽出における役割が間接的

  • Ca²⁺とMg²⁺は、コーヒー中の風味成分(クロロゲン酸類、カフェイン、メイラード生成物など)と直接的なキレート結合を持ち、抽出効率を大きく左右する。
  • 一方、Na⁺やK⁺は風味成分とほぼ結合せず、抽出そのものに与える影響は小さいとされます。

2. TDSや味の「感じ方」には影響するが、明確な指針が少ない

  • Na⁺やK⁺は水のイオン強度や電気伝導率を上げ、甘さや塩味の知覚に関与するとされますが、
  • これは量が多すぎるとフレーバーのマスキングになる可能性もあり、レシピ設計が難しくなります。

Na⁺・K⁺を含める場合

1. 官能的な「甘さの強調」目的

  • Na⁺やK⁺は人間の味覚受容体に影響し、苦味のマスキングや甘さの強調効果を持つため、**「風味の補正剤」**として少量加えられることがあります。
  • これは特に浅煎りの酸味・苦味バランスをとるのに有効です。

2. 高TDSによる味のふくらみ

  • 少量のNa⁺/K⁺があることで、味に「ふくらみ」や「コク」を与えることがあります。
  • これは「味の密度感」や「口当たりの厚み」を補う狙いです。

🔬測定結果との対応(参考)

たとえば、Third Wave Water(Light Roast Profile)を分析した例では以下のような値が得られています:

成分 濃度 (mg/L)
Ca²⁺ 0
Mg²⁺ 約15
Na⁺ 約8
K⁺ 約3〜5
HCO₃⁻ 40〜60

→ つまり、Caを除き、Mgメイン+NaやKで味をチューニングする設計思想。

他に私が計測したところ、例えば最新ロットのAQUA CODEではパッケージ表示とは大きく異なりナトリウムとカリウムの比率は違いますがほぼThird Wave Waterと同じような結果でした。
アクアコード
エイペックスウォーターも全解析したところほぼ同じでした。
apaxwater

*ザグリ珈琲が開発したカリウムウォーター浄水器ではAPAXWATERとほぼ同比率のミネラル成分を天然由来のろ材で実現しています。カルシウムとマグネシウムをゼロにしさらにナトリウム、そしてカリウムを150mg/Lと極端に増大(*)させており特許を検討中でもあります(書いたところで誰も真似できないのでもし興味のある浄水器企業の方いましたら協業しましょう)。カリウムは夏バテにもよく、摂取量も特に法的な制限や健康上の阻害もないようです。

補足:18歳以上男性では1日2,500mg、女性では2,000mg。生活習慣病の予防を目的とした1日当たりの摂取量の目標量として、18歳以上の男性で3,000mg、18歳以上の女性で2,600mgと設定されています。開発したカリウム浄水器は1リットル当たり150mgですから問題ありません。ちなみに普通の水道水にはカリウム2mg程度しか入っていないため150mgという量が如何に大きいかがお分かりいだだけたでしょうか?

つまり2025年現在のブリュワーズ世界各国での大会優勝レベルのカスタムウォーターレシピが浄水器で手軽にできてしまっているということです。大げさだと思っている方はぜひ「水の教室」をどうぞ!わかりやすくお話しします↓。
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それぞれのミネラル配分はどうあるべきか?

成分 役割 少量添加の是非
Mg²⁺ 抽出・酸味強調 必須
Ca²⁺ 抽出・苦味傾向 不要または極少
Na⁺ 甘味補助・苦味マスキング 少量OK(8mg/L前後)
K⁺ コク・後味の調整 少量OK(3〜5mg/L)

浅煎り向けのマグネシウムベースのレシピには、Na⁺を+5〜8mg/L、K⁺を+2〜4mg/L程度加えることで、甘さや余韻を少しリッチにすることが可能です。

浅煎りのゲイシャなどのフローラル・ティーライク系の風味を引き出すことを意図しています。

🔄バッファを考慮する

より精密なカスタムウォーターを実現するためにはさらに細分化したミネラル成分での配合が必要となってきます。以下、それぞれの化合物の確認と、それらを使う理由(特にpH調整や緩衝能との関係)について詳しく解説します。

含有化合物の確認と性質

元素名 日本語名称 主な役割と特徴
Mg Sulfate 硫酸マグネシウム(MgSO₄) 硬度向上、抽出促進(酸味、透明感)
Mg Chloride 塩化マグネシウム(MgCl₂) 硬度向上+若干の塩味要素
K Chloride 塩化カリウム(KCl) 苦味抑制、コク、後味の調整
K Bicarbonate 炭酸水素カリウム(KHCO₃) 緩衝作用(pH安定化)、微細な甘み
Na Bicarbonate 炭酸水素ナトリウム(NaHCO₃) 緩衝作用、苦味のマスキング、pH調整
Na Chloride 塩化ナトリウム(NaCl) 甘みの補強、塩味による味の立ち上がり

※Bicarbonate(炭酸水素塩)は Na₂CO₃(炭酸ナトリウム)ではなく NaHCO₃(重炭酸ナトリウム)KHCO₃(重炭酸カリウム) を指すと考えるのが正確です。

ミネラルウォーター

なぜ ChlorideとBicarbonateが併用されるのか?

これは非常に重要な設計ポイントで、以下の理由があります:

1. pHバランスの最適化

  • MgSO₄やMgCl₂はやや酸性方向に働く傾向があります(CO₂との結合が弱く、pHが下がりやすい)。
  • それに対して、NaHCO₃やKHCO₃は緩衝塩としてpHを中性〜弱アルカリに保つ
  • このバランスにより、浅煎りの高い酸を活かしつつ、嫌なシャープネスやエグみを避ける狙いがあります。

2. 緩衝能の分散による味の調整

  • NaHCO₃やKHCO₃は緩衝域が異なるため、併用することでpHの変化に対する抵抗力が広い範囲で発揮される
  • 特に炭酸カリウム系はpHをやや高め、余韻をまろやかにする傾向があり、これが「アフターテイスト強調」につながる可能性があります。

3. Cl⁻(塩化物イオン)の官能的影響

  • Cl⁻は苦味を和らげ、味の立ち上がりやキレを良くすることが知られています(料理の塩と同じような作用)。
  • NaClやKClの使用は、風味全体をフラットにせず、立体感を出す意図があります。

結論:非常に緻密に設計されたミネラルブレンド

  • Mg²⁺の異なる塩(硫酸塩と塩化物)を併用して、抽出効率と風味の透明度をコントロール
  • Na⁺・K⁺を Cl⁻およびHCO₃⁻として導入することで、pH調整・甘み・後味を微調整
  • 全体として、「酸の華やかさ」「明るさ」「余韻」を最大化する浅煎り向きウォーターになっています。

💡もし再現性を求めるなら…

  • 各ミネラルの濃度(mg/L)と、使っている化合物の純度を把握する必要があります。
  • 「塩化物と炭酸水素塩の組み合わせはなぜ必要か?」という質問に対する答えは、**「pHと官能調整のため」**です。

水のミネラル

**HCO₃⁻(炭酸水素イオン)は、一般的には以下のような「炭酸水素塩」**で調整されます。

主な炭酸水素塩(HCO₃⁻供給源)

化合物名 通称 化学式 主な用途
炭酸水素ナトリウム 重曹 NaHCO₃ 最も一般的。家庭でも入手可
炭酸水素カリウム 食品添加物(重炭酸K)重炭酸カリウムとも呼ばれる KHCO₃ カリウム供給+HCO₃⁻調整に使用

重曹(NaHCO₃)を使う

  • 水に溶けやすく、炭酸水素イオン(HCO₃⁻)を安定的に供給できる
  • 弱アルカリ性の緩衝塩であり、水のpHを中性〜弱アルカリ(pH7〜8)に調整する効果がある
  • 食品グレードで安全・安価・扱いやすい(薬局やダイソーの掃除用ではダメです)

※ザグリ珈琲では、天然由来、内モンゴル産トロナ鉱石を原料とした食品グレードの重曹を使用しています。

使用時の注意点

濃度を慎重に調整すること

添加量が多すぎるとpHが高くなりすぎて苦味・えぐみが出てしまいます。小数点以下3桁の精密秤を使いましょう。
一般的なカスタムウォーターでは、HCO₃⁻濃度は約30〜60 mg/L程度が目安(浅煎り用は低め)

他の陽イオンとのバランスを意識すること

例えば、NaHCO₃を使いすぎるとナトリウム過多になって甘みが不自然になったり、塩味が出る可能性があります

その場合は **KHCO₃(炭酸水素カリウム)**との併用でナトリウムを抑えつつHCO₃⁻を補うことも検討されます

炭酸水素カリウムについて

炭酸水素カリウムは日本ではなかなか入手しづらく炭酸カリウムは簡単に入手でき、炭酸カリウムも炭酸水素カリウムは、どちらもカリウムを含む化合物です。しかし化学式と性質が異なります。炭酸カリウムはK₂CO₃、炭酸水素カリウムはKHCO₃です。炭酸カリウムはアルカリ性が強く水への溶解度も高いですが、炭酸水素カリウムは弱アルカリ性で水への溶解度はやや低めです。炭酸水素カリウムは、炭酸カリウムに二酸化炭素を作用させることで生成されます。

炭酸カリウムはより強力なアルカリ性を持つ化合物で、工業的に広く利用されており一方、炭酸水素カリウムは、より穏やかなアルカリ性を示し、食品や農業分野で利用されています。つまり炭酸カリウム溶液に二酸化炭素を添加しpHを測ってみればよい。

まとめ

HCO₃⁻の調整には食品グレードの「重曹(NaHCO₃)」を使います。
カスタムウォーターではこれをpHと緩衝能の調整、苦味のマスキング、酸のやわらげに利用します。必要に応じてNaHCO₃とKHCO₃を併用して、ナトリウム過多を防ぎつつ緩衝力を保つことが望ましいです。

重曹や炭酸水素カリウムを使ったレシピ

以下では、**1リットルの精製水(または純水・RO水など)**に対して、既存のミネラルバランスをベースにNaHCO₃(重曹)やKHCO₃(炭酸水素カリウム)を追加する方法を説明し、**g単位の添加量(重さ)**を提示します。

🎯 目的:HCO₃⁻(炭酸水素イオン)を30〜60mg/Lにする

これがフローラルやティーライクな風味を持つ浅煎りに適した一般的な目標値です。

添加量の計算方法(理論ベース)

物質名 分子量 (g/mol) HCO₃⁻ 含有量 目標濃度 必要な添加量
NaHCO₃ 84.01 1 mol に 1 mol の HCO₃⁻ 50 mg/L HCO₃⁻ 約 84 mg
KHCO₃ 100.12 同上 50 mg/L HCO₃⁻ 約 100 mg

つまり、

  • NaHCO₃ 84 mg(0.084g) → HCO₃⁻ 50mg/L
  • KHCO₃ 100 mg(0.1g)→ HCO₃⁻ 50mg/L

実用レシピ例(1リットルあたり)

🌿 フローラル風味補強・余韻型(中性pH狙い・ナトリウム控えめ)

物質 量(g) 備考
KHCO₃(炭酸水素カリウム) 0.10 g HCO₃⁻ 50mg/L供給、pH緩衝・甘み
NaHCO₃(重曹) 0.03 g HCO₃⁻補助・わずかな甘み調整(Na⁺抑制)

→ 合計 HCO₃⁻ 約60mg/L、Na⁺とK⁺をバランス良く供給

💧 シンプルな中性pH調整・ナトリウムメイン(コクや塩味も欲しいとき)

物質 量(g) 備考
NaHCO₃(重曹) 0.084 g HCO₃⁻ 50mg/L、Na⁺も同時供給
KHCO₃ 不使用 K⁺なし

注意事項

  1. 秤量は0.001g単位の超精密秤を使用してください。
  2. 添加後はよくかき混ぜて完全に溶解させます。
  3. このレシピは他のミネラル(MgやCl⁻など)がすでに調整済みであることを前提としています。
  4. NaHCO₃を使いすぎるとpHが高くなりすぎ、コーヒーの味に鈍さが出る可能性があるため注意してください。

おすすめの応用方法

  • HCO₃⁻の濃度を微調整したい場合は、NaHCO₃とKHCO₃の比率を変えて調整できます。
  • 例えば、「余韻は強めにしたいがナトリウムは控えたい」という場合はKHCO₃主体にします。

以上、「コーヒー抽出における水の最適化」の解説でした。昨年、水やブリューイングについて触れる機会があり、研究段階含めて約半年間で浄水設備を自力で工事したのち、特定のミネラル成分が浄水器では実現できないのが判明し、試薬を使っての実験と海外のブリュワーズ大会で使われているApaxwaterなどのカスタムウォーターキットを取り寄せてミネラル成分を全て解析した上で書きました。内容が難しく感じた方もいるかもしれませんが「水の教室」ではわかりやすく実演講義します。

カッピング

なぜこのような水の分析と実験を行なっているのか?

例えば焙煎度がパーフェクトで抽出水がそれに合ったミネラルであったなら?

ザグリ珈琲ではグレードの高いCOE入賞レベルの豆も味ごとに分類して精密に焙煎しています。そんな豆は非常に高額(スペシャルティ豆の数倍〜数十倍)ですからある程度水がブれていようが美味しくて当たり前です。しかし、特にエルパライソ農園など発酵系の豆は、水はもちろんのこと焙煎も適切でないと良さが出し切れないです。適切な焙煎と水であればトロピカルフレーバーと余韻の残る甘さを極限まで引き出すことができます。
焙煎

ザグリ珈琲では普通のスペシャルティグレードのコロンビアやグアテマラなどのデイリーユースの豆も如何に美味しく淹れるかを追求しています。水を調整することによって上記のエルパライソ農園と同じ品種のカステージョなどのスペシャルティグレードの豆も驚くほど美味しく淹れられます。焙煎、水、抽出は全て同列に捉えればコーヒーの味を自在にコントロールすることができるのです。
カッピング

カスタムウォーターの簡単な作り方レシピ、ブリューイングは教室にて。水の教室で体験できます!

水の教室

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