クロロゲン酸の種類
クロロゲン酸はただ単にクロロゲン酸として扱われますが化学的にはいくつかの「異性体(アイソマー)」が存在し、特に「モノクロロゲン酸(Monochlorogenic acids)」と「ジクロロゲン酸(Dichlorogenic acids)」は、化学構造の違いによって分類され、珈琲の酸としては別の特徴を示すためここでは区別して説明します。
🔬 クロロゲン酸分類(Chlorogenic Acids)
クロロゲン酸は「ヒドロキシ桂皮酸(カフェ酸など)」と「キナ酸(Quinic acid)」がエステル結合した構造をもつ化合物群の総称です。
🧪 ① モノクロロゲン酸(Monochlorogenic Acids)
モノクロロゲン酸(Monochlorogenic Acid)の代表成分である:
5-カフェオイルキナ酸(5-Caffeoylquinic acid)
が、いわゆる「モノクロロゲン酸」として知られています。
🔬 化学式と基本情報
項目 | 内容 |
---|---|
化学名 | 5-Caffeoylquinic acid(5-CQA) |
分子式 | C₁₆H₁₈O₉ |
分子量 | 約 354.31 g/mol |
構造特徴 | カフェ酸 + キナ酸がエステル結合した構造 |
酸性 | 多価フェノール酸で、酸味に寄与 |
🧪 構造の概要
Caffeic acid(芳香環+ヒドロキシ基)
↓ エステル結合
Quinic acid(多価アルコール・酸性)
この組み合わせで、**コーヒーの「フルーティな酸味」や「クリーンな明るさ」**を作っているわけです。
☕ 味への影響
- 浅煎り:多く残存 → フルーティ、鮮やかな酸味
- 中煎り:分解し始め → キナ酸やカフェ酸へ分かれ、後味に移行
- 深煎り:ほぼ分解 → 酸味減少、苦味・香ばしさへ移行
- 1分子のカフェ酸(または他のヒドロキシ桂皮酸)が1箇所に結合
- 一般に「5-Caffeoylquinic acid(5-CQA)」と呼ばれるものが最も多い
- コーヒー豆中では最も多く含まれるクロロゲン酸(全体の約50%以上)
- 完熟豆に含まれる
特徴:
- 熱に比較的安定(ただし220℃以上で分解)
- 味:ややフルーティで渋味が少ない
- 主に浅煎りコーヒーの酸味・明るさに寄与
🧪 ② ジクロロゲン酸(Dichlorogenic Acids)
ジクロロゲン酸(Dichlorogenic acid)は、クロロゲン酸(chlorogenic acid)類の一種で、「カフェ酸が2つ結合した構造」です。以下に説明します。
✅ ジクロロゲン酸(Dichlorogenic acids)の代表例
3,5-ジカフェオイルキナ酸(3,5-Dicaffeoylquinic acid)
項目 | 内容 |
---|---|
化学名 | 3,5-Dicaffeoylquinic acid |
分子式 | C₂₅H₂₄O₁₂ |
分子量 | 約 516.45 g/mol |
構造 | キナ酸にカフェ酸が2つ結合(3位と5位) |
酸味・機能性 | より強い酸味、抗酸化力も高め |
🧪 構造イメージ
Caffeic acid + Quinic acid + Caffeic acid
(芳香酸) (多価アルコール) (芳香酸)
二重エステル構造で安定かつ大きめの分子。
☕ 味や焙煎への影響
焙煎度 | ジクロロゲン酸の状態 | 味への影響 |
---|---|---|
浅煎り | 多く残る | 明確な酸味、やや強めの渋みも |
中煎り | 徐々に分解(カフェ酸やキナ酸へ) | 酸味がまろやかに、香ばしさが出てくる |
深煎り | ほぼ分解 | 酸味はほぼ消え、苦味・香り主体にシフト |
特徴:
- 熱に対してより不安定で、焙煎中に分解しやすい
- 2分子のカフェ酸がキナ酸の別の位置に2つ結合
- 例:3,5-diCaffeoylquinic acid(3,5-diCQA)など
- 味:苦味や収斂味がやや強く出る
- 分解生成物が深煎りのボディ感や苦味に関与
- 未熟豆に含まれる
☕ モノクロロゲン酸とジクロロゲン酸の味と焙煎の違い
種類 | 焙煎耐性 | 味の印象 | 主に寄与する焙煎度 |
---|---|---|---|
モノクロロゲン酸 | 比較的安定 | 酸味、明るさ、クリーン | 浅煎り〜中煎り |
ジクロロゲン酸 | 分解しやすい | 渋味、苦味、コク | 中深煎り〜深煎り |
🎯 実践的なポイント
- モノクロロゲン酸/ジクロロゲン酸は異なる
→ 焙煎度で話が異なるため注意が必要↓。 - 浅煎りを狙うときは、モノクロロゲン酸の残存を意識
→ クリーンで華やかな酸を引き出すプロファイル設計がカギ。 - 深煎りでは、ジクロロゲン酸の分解由来の苦味が味の骨格
→ 焦がさずに“まろやかに苦い”仕上がりを狙うと◎。
珈琲について、CQIやSCAのトレーニングや焙煎セミナーなどで「クロロゲン酸」について語られることがありますが、焙煎度の違いと性質の異なるクロロゲン酸を別に考えなくてはならないと気がつきました。しかし、私は科学者ではありませんし、珈琲に含まれるクロロゲン酸の分析装置を持っているわけでもありませんので全てのクロロゲン酸を完全に理解しているわけではありません。