pHを守る炭酸塩が、酸味やコクにどう影響するかをわかりやすく解説
水中のマグネシウムイオンは、フルーティーな風味の抽出を助け、カルシウムはより質感のある風味を強調します――そして「バッファー(緩衝物質)」は、酸味のある風味に対して拮抗して働きます。
抽出への影響が最も大きいのはマグネシウム(Mg²⁺)であり、カルシウム(Ca²⁺)はやや劣り、ナトリウム(Na⁺)はさらに影響が小さくなります。各イオンの効果の大きさには違いがありますが、影響のバランスはおおむね似たようなものです。
マグネシウムを適度に含む水は、コーヒー成分の抽出に優れており、得られる風味は、水中のイオンのバランスと重炭酸塩(bicarbonate)=バイカーボネイト量の適切なバランスにのみ依存します。ただし濃すぎると雑味の原因ともなるため適度な配合を考慮する必要があります。
マグネシウムがカルシウムに比べてやや強い抽出作用を持つ理由は、コーヒー中の風味成分の多くが分子量が小さく、酸素原子を多く含んでおり、マグネシウムがそうした構造と親和性が高いためです。
↑現状、水道水ベースでの硬度調整ですが、カルシウムとマグネシウムの比率では通常、日本の水道水の場合はカルシウムイオン量の方が多くマグネシウムは微量です。そこで硫酸マグネシウムを適量使ってマグネシウムイオンのみ含まれたカスタムウォーターを作ります。
炭酸塩もまた重要な要素であり、酸を中和・吸収する能力を持つ成分のひとつです。この性質により、溶液中の酸レベルを一定に保つ「緩衝能」を果たします。過剰な酸を中性に戻す役割をします。
↑マグネシウム添加によりpH7台だった水が酸性に傾きました
炭酸塩は、コーヒー抽出に使う水の中でまさに「王道」とも言える存在です。もしその存在を軽く見てしまえば、せっかく美味しくなるはずのCOEランクやSCA90点級の豆が、残念な味になってしまうかもしれません。
炭酸塩は、「酸の緩衝能(かんしょうのう)」=pHを安定させる力を持っています。ここで言う「pH」とは、水や液体がどれだけ酸性かアルカリ性かを示す指標です。緩衝能があると、外から酸やアルカリが加わっても、その液体のpHが大きく変わらないように保ってくれます。
ただし、「安定している」というのは、必ずしも「中性(pH7)」という意味ではありません。たとえば、少し酸味がある状態で安定している、ということもあります。
マグネシウムで酸性に傾いた水を炭酸塩でpH7.5付近まで調整しました↓。
コーヒーにはもともと弱い酸(たとえばクエン酸やリンゴ酸など)が含まれています。抽出されたコーヒーの酸味の強さやバランスは、水の中にどれだけ炭酸塩があるか、つまり「炭酸塩硬度」によって変わってくるのです。炭酸塩の量が多いと、酸味がまろやかになり、少ないと酸味がシャープに感じられることがあります。
炭酸塩は、コーヒーの味を守る“pHのガードマン”
☕ なぜ「水」にこだわるとコーヒーが変わるのか?
コーヒーに含まれる「弱い酸(クエン酸やリンゴ酸など)」、これが「明るい酸味」や「フルーティさ」を生み出す大事な要素。でも、水の性質によってこの酸味の出方が大きく変わるのです。
🧪 炭酸塩とは?
水に溶けている“目に見えない小さな守り神”のようなもの。とくに「炭酸水素イオン(HCO₃⁻)」の形で存在しています。
🛡 炭酸塩の役割=pHのガードマン(緩衝能)
たとえば…
状況 | pHがどうなる? | ガードマン(炭酸塩)がいると? |
---|---|---|
酸味のあるコーヒー液が抽出される | pHが急に下がる(酸性に傾く) | 炭酸塩がそれを緩やかに和らげる |
アルカリ性のミネラルが多い水で抽出 | pHが急に上がる(アルカリ性に傾く) | 炭酸塩がそれを抑えてバランスを保つ |
こうした働きがバッファー「緩衝能(buffering capacity)」と呼ばれます。
コーヒーの酸味は炭酸塩で変わる
炭酸塩が多い水(硬度が高い) | 炭酸塩が少ない水(軟水) |
---|---|
酸味がまろやかに感じられる | 酸味がシャープ/立つ |
苦味やコクが出やすい | クリーンだが酸が前に出る |
- 炭酸塩はコーヒー抽出時の「酸味コントローラー」。
- 水の中の炭酸塩量(=炭酸塩硬度)によって、同じ豆でも味の印象が変わる。
- コーヒーの水を考えるときは、ミネラル量だけでなく「pHを守る力」も重要。
「炭酸塩(carbonate)」とは、炭酸イオン(CO₃²⁻)を含む化合物の総称で、コーヒー抽出においては「アルカリ性の緩衝成分」として重要な役割を果たします。
炭酸塩って何?重曹のこと?
- 化学的には、炭酸イオン(CO₃²⁻)や重炭酸イオン(HCO₃⁻)を含む物質を指します。
- 水中では主に 重炭酸塩(bicarbonate)の形で存在します。
- 英語では、しばしば “carbonates” という言葉で重炭酸塩(HCO₃⁻) を含むすべてをざっくり指すことが多いです。
「重曹(じゅうそう)」は炭酸塩の一種です。
名称 | 化学式 | 分類 | 用途例 |
---|---|---|---|
重曹 | NaHCO₃ | 重炭酸塩 | 清掃用など |
炭酸ナトリウム | Na₂CO₃ | 炭酸塩 | 洗剤、ガラス製造など |
重炭酸カルシウム | Ca(HCO₃)₂ | 水に溶ける炭酸塩 | 水道水中に自然に含まれる成分 |
コーヒー抽出で問題になるのは?
水道水やミネラルウォーターに含まれるカルシウムやマグネシウムと結びついた重炭酸塩(例:Ca(HCO₃)₂「炭酸水素カルシウムまたは重炭酸カルシウム」やMg(HCO₃)₂「重炭酸マグネシウム」)が重要です。これらは水の「炭酸塩硬度(carbonate hardness)」を構成し、pHを安定させたり、酸味を和らげたりする働きをします。
ただし、量が多すぎると風味を平坦にしてしまったり、器具にスケール(水垢)を作ってしまう原因にもなります←これがエスプレッソマシンに適切な浄水器が必須なわけです。このページはドリップ抽出について書いていますのでエスプレッソは関係ありませんが当店の場合、RO逆浸透膜浄水器に通した硬度ゼロの純水にカルシウムとマグネシウムを全量ナトリウムイオンに変換した水を混合させてラテ用のマルゾッコに通していますので理論上はスケールが発生しない環境を作っています。ナトリウムは甘味を引き出すミネラルですので理にかなっているというわけで、実際美味しいと思いますがラテアートはうまく描けません。。
要約
- 重曹(NaHCO₃)は炭酸塩の一種ですが、家庭で使うような掃除用の重曹を水に加えて使うことは、珈琲の抽出では推奨されません。
- コーヒー抽出では、水に自然に含まれる炭酸塩(特に重炭酸塩)が味の安定性に影響を与えます。
- 多すぎても少なすぎてもダメなので、「適切な炭酸塩バランス」が重要です。
コーヒー抽出における炭酸塩(重炭酸塩)濃度の理想値や、焙煎度別のバランス感覚についてまとめます。
コーヒー抽出における炭酸塩(重炭酸塩)の役割と理想値
炭酸塩の働き
機能 | 内容 |
---|---|
pHの安定化(バッファー作用) | 酸が強すぎる時に中和し、弱すぎる時に補う。味をまろやかに保つ。 |
酸味の調整 | 酸が突出しないように和らげたり、場合によっては抑えすぎて風味を失わせる。 |
器具への影響 | 炭酸塩が多すぎると、スケール(水垢)が発生しやすくなる。 |
理想的な炭酸塩(重炭酸塩)濃度の目安
単位:ppm(mg/L)HCO₃⁻換算 または アルカリ度としてのCaCO₃換算
焙煎度 | 理想的な重炭酸塩濃度(HCO₃⁻) | 味への影響 |
---|---|---|
浅煎り | 30〜60 ppm | 明るい酸味を保ちつつバランスをとる。多すぎると酸が抑えられすぎる。 |
中深煎り | 40〜80 ppm | 酸とボディのバランスが良くなる。 |
深煎り | 70〜120 ppm | 酸はほとんどないので、過度なバッファーでも味への悪影響は少ないが、過剰だと平坦に。 |
「アルカリ度(Alkalinity)」とは?
- アルカリ度は主にHCO₃⁻(重炭酸イオン)の量を反映する指標。
- 水道水分析では「アルカリ度(CaCO₃として)」という表記がよくあります。
- たとえば「アルカリ度50 ppm(CaCO₃換算)」は、おおよそ重炭酸イオンで約60 ppm相当です。
カスタム水を作る
例えば競技会クラスやCOEランク上位豆を浅煎りで焙煎しFlavorを強調してAcidityを強すぎなく適度にクリアに出したい場合、純水をベースにカスタムウォーターを作ります。
↑炭酸塩調整
エチオピアのCOEランク90点のアグトロン値豆63/粉84のサンプルロースト豆を硬度調整したカスタムウォータにて抽出↓。
マグネシウムカスタムウォーターを作りました。pH6.7/TDS50ppm/102μsに変換した硬度ゼロの純水をバッファーし、pH7.45/TDS80ppm/160μsにカスタムしました。TDS濃度が強すぎはNGです。微量の試薬を使いますので小数点以下三桁のスケールを用いてTDSは二桁に抑えます。
水の炭酸塩量とコーヒーの味の違い
炭酸塩が多い水(中硬水~硬水) | 炭酸塩が少ない水(軟水) | |
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味わい | まろやかで丸い酸味 | 鮮やかでキレのある酸味 |
抽出 | 酸が抑えられコクが出る | 酸が前に出てすっきり |
向く焙煎度 | 中深煎り~深煎り | 浅煎り~中煎り |
テイスティング結果やカスタムウォーターの作り方レシピ、ブリューイングは教室にて。水の教室、「浅煎り編」で体験できます!