2024年11月21日 15:23最新の情報です

明治43年の日本の化学教科書のコーヒー記述

明治43年の日本の化学教科書のコーヒー記述

明治43年の日本の化学教科書のコーヒー記述を発見しました。旧字旧仮名使いは読みにくい部分は適宜現代語に編集してあります。

明治時代の教科書

なんでそんなに古い本があるの?
フォント作成用に江戸時代から明治時代にかけての古い教科書を収集してました。主に字体を研究する目的で集めていたんだけど理科や物理、化学の教科書など内容が面白い。嗜好品や麻薬など現代の教科書にはない記述がいっぱい。其中からコーヒーを抜粋しました。明治43年というと西暦1910年だから今から113年前に書かれた教科書。

ザグリ珈琲店主の大谷はもともと文字=フォントを核とするデザイナーです。様々なフォント製作をする上で過去に人類が作った文字たちを調べていて古い日本の文字資料も収集しています。唯一尊敬する今は亡き文字界の巨人、白川静先生の「文字があった。文字は神とともにあり、文字は神であった。」という言葉に文字の大切さを学んでいます。文字に関しての私のコンテンツはフォントグラフィックにまとめていますので興味のある方はご覧ください。


コーヒーは其産地によって多少の種別はあるが、大概十二尺乃至十五尺の高さに迄成長する灌木であって、黒く滑らかな光澤ある常緑葉を持って居る暖國の植物で、木綿と略同じく、南北緯二十六度以上の土地には多く生育しない。淡白き花を開き、数個相集まれる実を結ぶ。其果実は外部に柔らかき肉をもち、其内には通例二の種子が相対してある(第八十六圖)。其種子が即ちコーヒーとして役立つ部分であって、市上に商品として見るものは、其肉質の部分のみならず、其種皮の大部分をも取り去ってある。長く保存するに従って愈々(いよいよ)其質が良くなると云ふ(*)。
第八十六圖

*エリス氏に従へば、亜米利加産の最も劣等なるコーヒーも、十年乃至十二年間貯蔵すればトルコ産の最上品と同様になるといふ。

コーヒー樹の種子其物は、単に空気中にて乾かしたるのみのものは、少しも好ましき香はなく、悄々(しょうしょう)苦く澁き味をもつのみであるが、之を焙(い)ると云ふ手続きを経て、始めて其特色なる香気と味とを有するに至るのである。従って其焙り方は、コーヒーの質の上に大なる影響を及ぼすのであって、通例二〇〇度位の温度に於て、淡き褐色を呈する位に焙るときは最も香気強きものが得られる。若し焙り過ぐるときは、一種不快なる臭気を混ずる様になる。

之を飲用する方法は碎きたるコーヒー一オンス(約八匁)に対し、一合乃至一合五勺の沸騰せる湯を注いでもよい。或は上記の量の水を加へて、徐々に温度を高め、殆んど沸騰する迄に至らしめ、暫く冷やして又之を熱し、沸騰点に近く来ら背、斯くて数回之を行ふと云ふ方法もある。何れにせよ之を沸騰せしむるは宜しくない。滓(かす)は適当なる濾器に依って去らねばならぬ。

本年一月発行のサイエンチフィック、アメリカン、サップレメント誌上に於て、アモリー氏が、コーヒーの飲用方として自己の経験を公にしたるところに依れば、最良の方法は、細粉となしたるコーヒーを濾器に入れ、氷塊を之に載せ、其上に冷水を滴下せしめる(同時にコーヒー粉を攪き混ぜて、全体が糊状になるやうにする)。かくて氷のごとき冷水がコーヒー中より溶け得べきものを溶かして濾器の下に得られる。此液を更に今一回前のコーヒー粉の上にぎて濾器を通過せしめる。水量が多からざるときには、可なりに濃いものが得られる。此液は密栓して蓄ふるときは、二三週間は保存することが出来る。使用する度毎に、其一部分を取り出して、之に沸騰せる湯を加へて、適当の濃さになる迄にする。アモリー氏が五個年以上に亘る実験より云ふところに依れば、一度此方法を用ひたる人は、必ず再び従来の方法を採らぬであろう。

第八十七圖

コーヒーにありて主要なる成分は、芳香油、カフエーン(テーンと同じ物)及びタンニン酸に類似せる酸の三者であって、大体は茶の主要成分と異なるところがない。芳香油は甚だ少量に含まれてあるに過ぎぬが、其多少は、コーヒーの価値の上に大関係があるものである。元来芳香油としては種子中にないのであるが、之を焙りて始めて此ものが出来る。此際に起る化学変化に尽きては、吾人は未だ明瞭なる解釈を得ない。兎に角エルドマン氏は、焙りたるコーヒーを蒸溜することに依りて、其〇.〇八四四。三.一%の窒素を有し、コーヒーに特有なる香気ある成分未知なる芳香油の外、二三種の化合物を混じて居ると云ふ。
右の如くして得たるコーヒーの蒸溜液を飲用したる結果はジュリアス、レーマン氏の報告によれば、茶素と同様に、精神を爽快ならしめ、少しく汗を出し、飢ゑの感覚を治し、腸の蠕動を活発にsする。但し以上の結果は、一日にコーヒーの二オンス(種子に就て云ふ)を用ひたる時のことにして、若し其二倍量を飲用するときは烈しく発汗し、眠りを妨げる等のことが起る。

カフェーンは其含量が茶の約半分位である(一〜一.七五%)。其性質は既に茶の節に於て述べたところである。
タンニン酸に似たる酸、コーヒーの未だ焙らざるものは、多量の渋味ある酸を含んで居る。此酸は甚だタンニンに似て居るが、鐡鹽に遇ふては緑色を呈して黒色を呈しない。又ゼラチンの溶液に加へても、之を凝固せしむることがない。コーヒーを焙るときには、此物の一部分は変化を受くるが、ほ其儘であるものもあって其味の上に、其生理作用の上に、かなりの関係を有して居るらしい。

次なるはコーヒー分析の結果の一例である。

コーヒーの分析表

生のコーヒー 焙りたるコーヒー
水分 一一.五〇 一.七五
カフェーン 一.三一 一.二八
タンニン類似の酸 六.五〇 四.七五
含窒素室(カフェーンを含む) 一二.〇五 一三.九五
粗脂肪 一二.五〇 一四.一〇
蔗糖 八.五〇 一.二五
可溶性無窒素物 一八.三五 三二.八〇
粗繊維 二六.五〇 二六.六五
灰分 四.一〇 四.七五

ちょっと読みにくかったけどなんとか理解できました!
絶対読めないだろーなーという部分にはふりがな、旧かなは新字に直して居るので読みやすいようにしました。コーヒーに関係しそうな項目で発酵なども解説されていたり、どういう器具で計測して居るかなど紹介されています。写真がない時代だったため説明の図版が銅版画で紙幣レベルで詳細。

明治時代の教科書

error: Content is protected !!