奄美大島の珈琲
春に奄美大島産のコーヒー生豆を持っている方が焙煎教室に参加され、ギーセンで焙煎しました。580グラムの生豆でWashed。水分値、密度、硬度低めです。
写真や動画もたくさん提供いただきました。奄美大島ではブルボン種を栽培しているそうです。実を放置しておくとどんどん芽が出るそう。
農園の様子。
奄美大島のブルボン種。
お手製のパルパーでチェリーの皮むきをしている様子。
川で水洗。
浅煎りで焙煎。カップをとってみましたがネガティブ要素は一切なく、点数はスペシャルティ基準を楽々クリアー。Herb-likeでクリーンな味わいのウォッシュドコーヒー。
奄美産ブルボンチェリーでの発酵実験
その後、焙煎教室の生徒さんが奄美のコーヒーチェリーをたくさん持ってきてくださりコーヒーチェリーの発酵実験開始。大変貴重な奄美産ブルボン種。日本では海外のコーヒー農園のチェリーを輸入することはできません。したがって日本でコーヒーチェリーの精製実験をするには日本産のチェリーを使うしか方法がありません。もしくは海外のコーヒー農園に出向いて発酵作業をするか。
柳川産の発酵実験での教訓を活かしてコーヒー豆のアナエロビックナチュラル精製に入ります。酵母実験はこれまでいくつかの実験例がありまして今回はパッションフルーツ共発酵、赤ワイン酵母などを組み合わせます。人の手に及ぶところはなくとにかく雑菌が入らないよう清潔にして殺菌するのと酵母頼りと如何に培養しやすい環境を作れるかが鍵となります。
赤ワイン酵母発酵。これは大変元気の良い酵母でプレ発酵で既にかなりの発泡具合。発酵させるための器材はヨーグルト作り器(タニカ電器製)が温度や時間を簡単に設定できます。
共発酵。低温での発酵が可能な酵母を使い25℃でコントロール。この酵母はコーヒーチェリーの果肉の糖分と結びついて勢いよく発酵はじめました。
温度上昇による過発酵を防ぐため一定時間ごとにチェック。
コーヒーチェリーの発酵は世界各地の農園での発酵公開情報や今まで飲んだことのある発酵豆の味を参考にしています。コロンビアなど一部の農園によってはレモン、ストロベリー、マンゴーなどのフルーツ、ミントやユーカリなどのハーブを加え共発酵で様々なフレーバーを作り出しています。
天日乾燥↓。
発酵から天日乾燥までの様子をショート動画にしました。
乾燥させたチェリーはジューサーミキサーで脱穀しました。精米器などでも代用できるそうです。
パーチメントを剥いた生豆。
出来上がった生豆。
6月に焙煎しました。チェリーが来てから約3か月間という道のりでした。約229グラムという少量でしたので火力をかけすぎないように失敗しないよう慎重に焙煎しました。
発酵実験成功
そしてテイスティング。ネガティブな要素はなく、発酵豆特有のブドウやピーチなどの果実感がしっかりありクリーンな味わいでした。冷めてきてからはパッションフルーツなどトロピカルフルーツフレーバーも顔を出します。これは共発酵由来のもので、発酵作業でのパッションフルーツ果汁添加によるフレーバーの創出が実感できました。当店で焙煎している他の国のアナエロに例えるならニカラグアの低温発酵ジャバニカ、或いはコスタリカブルボンのアナエロビックハニーあたりに近いです。
1袋コーヒー一杯分という少量ですけどパッケージングしました。かけた時間や使った酵母や失敗などを含めると一杯あたりの値段は相当な金額になりますがこれは売り物ではなく生産農家の方や関係者に渡りました。当店ではアラビカとロブスタの両資格を持つQグレーダーさんとテイスティングしました。
PROCESS/Saccharromyces
Cerevisiae/36h Brix8.8%
Anaerobic Natural 36h発酵の実験でした。酵母菌は複数使いましたが、発酵度合いは酵母菌が活性化して放つ匂いで決めました。過発酵による失敗を防ぐため36時間という短めの発酵。36時間以降はそのまま3-4日漬け込み放置。合計118時間。
総括
近年、世界各地の珈琲農園では盛んに発酵精製が行われています。テロワールや品種に恵まれない地域でも微生物による発酵精製は有効な手段かと思われます。
今回の実験ではコーヒーチェリーは少量でしたので慎重に失敗しないように進めましたが、前段階で2021年頃から始めたコーヒー生豆のインフューズド(ウヰスキー、日本酒、赤ワイン、白ワイン、ブランデーなどのお酒や果汁)実験が役に立ちました。
まず、成功の要因としてはコーヒーチェリーの様子、発酵の経過を詳細に観察(特に匂い)したのがポイントで、過去の失敗の原因としては大きく分けて2つあります。もし発酵豆に挑戦したいという方いましたら参考にしてください。
一つ目は過発酵〜腐敗です。雑菌が発生しないように清潔な環境と適温が重要となります。酵母の種類によって活性化する温度帯は異なりますので使用する酵母も重要かと思います。赤ワイン酵母や白ワイン酵母、パン酵母や米麹など様々な酵母が選択肢になりますがいずれも発酵しすぎによるネガティブなフレーバーは匂いで判断します。
二つ目が糖分過多による焙煎失敗。微生物が食べるものは糖ですので醸造と同じ原理です。この糖分過多については紙一重で発酵の度合いによっては過発酵になってしまいますし、インフューズドでも同じようなワインフレーバーの豆は人為的に作り出すことができます。糖分の多いコーヒー生豆は焙煎が非常に難しく、火が入りやすいためにすぐに焦げ付いてしまいます。糖分をコントロールする発酵やインフューズドは、コーヒーというよりかはワインや日本酒の醸造の領域となります。水の硬度も影響するようで、事前に学習した醸造系、酵母や発酵系の書物などが役に立ちました。ちなみに江戸時代は醸造の世界では発酵は目に見えないものでしたので神の領域だったようです。時代が下り顕微鏡などの出現で微生物が関係しているのがわかりだいぶ研究が進みました。発酵の原理が理解できればシンプルかと思います。