コーヒーの風味を形づくる要素のひとつに「酸」があります。
「酸味」と聞くとすっぱいだけの印象を持たれるかもしれませんが、実際には爽やかさ、甘さ、奥行きなど味わい全体に大きな影響を与える繊細な成分です。実は美味しいコーヒーの条件は、フレーバーホイールのページで解説しているように鼻からの香りのほかに、口に含んだ時の「美味しい酸」も重要となってくるのです。
本コンテンツでは、コーヒーに含まれるそれらの「酸の起源」に注目し、それぞれがどのように焙煎や抽出に関わり、どんな風味をもたらすのかをなるべく簡単に解説します。
Citric acid/Malic acid/Phosphoric acid
主にもともと珈琲の生豆に多く含まれる有機酸であるクエン酸とリンゴ酸、一部の産地豆に含まれる無機酸であるリン酸について、珈琲豆焙煎の側面から解説するページです。
- クエン酸リンゴ酸リン酸:コーヒー生豆中で多く含まれる有機酸と無機酸。酸味の主役であり、焙煎によって減少します。比較的感じやすい酸になります。
- 酒石酸(tartaric acid)試薬として一般に購入できますので試してみてください。葡萄やワインの精製過程で採れます。葡萄から採取した粗酒石に加里ソーダを化合させると、酒石酸加里ソーダという少し大きな結晶体が精製されます。これがロッシェル塩となり音波防御レーダーとして、潜水艦や魚雷に対処する兵器となり大東亜戦争中は日本軍のレーダー探知機素材としても使われていました。国税庁酒石酸ページ参考。
- 乳酸(lactic acid)名前の通りです。普通に乳酸飲料は買えるので試してみてください。イエメン産の一部の豆で感じたことがあります。
- 酢酸(acetic acid)お酢です。酢酸自体は銀塩写真の現像で使われますので暗室での白黒写真現像作業を思い出します。鼻を刺すようなツンとする独特の刺激臭がします。原液の酢酸ほどではないですが過発酵気味の珈琲でごく稀に感じることがあります。
- クロロゲン酸(chlorogenic acid):※これは「フェノール類」に分類される抗酸化成分であり、果実の酸味には直接は関与しません。下方で詳しく解説したページにリンクします。
✅ 珈琲液のクエン酸、リンゴ酸を測れないか?
珈琲の濃度計で知られれる「アタゴ」からコーヒーチェリーの糖酸度計が2025年新しく発売されたのでメーカーに
次のような問い合わせ↓をしたところ、
「チェリーではなく珈琲生豆に含まれる、
クエン酸
リンゴ酸
は、焙煎加熱によって減っていくかと思いますが、
どの温度地点で減少するのか、
焙煎されたコーヒーに残る
クエン酸リンゴ酸は微量かと思いますが
その位の微量を計れますか?」
次のような回答↓でした。
「【糖酸度計(コーヒーチェリー) PAL-BX|ACID40 マスターキット】は、
測定対象物がコーヒーチェリーになり、コーヒーチェリーに含まれる酸は主にクロロゲン酸のため、
電気伝導度にて総酸を検出し、クロロゲン酸に換算しています。
そのため、クエン酸やリンゴ酸をそれぞれのみを抽出/分析することは出来かねます。」
更にAIで確認したところ
次のような結果↓となりました。
✅ なぜアタゴの糖酸度計が「クロロゲン酸換算」なのか?
- アタゴの糖酸度計(PAL-BX|ACID40)は電気伝導度で「酸の総量」を測定します。
- その結果を、「チェリーに多く含まれるとされるクロロゲン酸」の換算式で表示しているに過ぎません。
- つまり、この機器は「どの酸か」までは特定せず、“酸の強さに基づく導電性”をクロロゲン酸相当で表現しているのです。
✅ 結論
クエン酸やリンゴ酸など特定の酸を定量的に測りたい場合は高速液体クロマトグラフ(HPLC)が必要です。医薬品メーカーや専門の研究機関の大型設備です。もし測れる機会があれば試してみたいものです。
Chlorogenic acid/Trigoneline/Quinic acid/KCL
焙煎によって増減する代表的な酸を抽出する水の硬度から解説します。それぞれの酸のページをお読みください。
クロロゲン酸:コーヒー中で最も多く含まれる酸。酸味の主役であり、焙煎によって風味が大きく変化します。
トリゴネリン:焙煎中に分解され、ニコチン酸(ナイアシン)や香気成分に変化する興味深い成分です。
キナ酸:クロロゲン酸の熱分解によって生じる酸で、特に苦味や余韻に深く関わります。
カリウム(KCl):無機塩として酸味に影響するだけでなく、pHバランスや舌触りにも関わる成分です。
珈琲はpH計で測ると数値上では酸性を示します。焙煎度が浅いほど酸性度が強いです。2ハゼまで入れた深煎りは5.5前後、1ハゼ途中のアグトロン値63だと4.Xの値です。