Malic acid/Citric acid/Phosphoric acid
珈琲に含まれる代表的な酸である リンゴ酸(Malic acid)、クエン酸(Citric acid)、リン酸(Phosphoric acid) について、それぞれの味の特徴と化学式、焙煎時における含有量変化を以下にまとめました。
① リンゴ酸(Malic acid)
- 化学式:
C4H6O5
- 味の特徴:
フルーティーで爽やかな酸味 - 名前の通り、青リンゴのようなシャキッとした酸味
- 中米やアフリカ系の浅煎り豆に多く、冷めてからも明るい印象を与える
② クエン酸(Citric acid)
- 化学式:
C6H8O7
- 味の特徴:
- レモンや柑橘系のような明瞭で鮮やかな酸味
- クリーンカップの印象を強める
- エチオピアなどの華やかな香味の豆に含まれることが多い
③ リン酸(Phosphoric acid)
- 化学式:
H3PO4
- 味の特徴:
他の有機酸と違い無機酸で、酸味が非常にシャープ - 他の酸に比べて「金属的」「電気的」とも表現されるパキッとした酸味
- ケニアなどの豆に多く、ジューシーさや明るい印象を与える。ケニアの土壌由来とも云われる。
これらの酸は焙煎度や焙煎プロファイルによっても含有量が変わり、味の印象も大きく左右されます。焙煎が進むと徐々に分解・揮発していき、深煎りで豆の芯までしっかり加熱された場合は酸の印象が弱くなる傾向があります。深煎りでも比較的短時間で表面と芯の焙煎度合いの差が大きい場合は酸は残ります。
無機酸と有機酸の主な違いは、炭素の有無です。無機酸は炭素を含まない酸で、リン酸を始め塩酸や硫酸などが挙げられます。一方、有機酸は炭素を含む酸で、酢酸やクエン酸などが挙げられます。珈琲に含まれる代表的なポジティブな有機酸はリンゴ酸、クエン酸、無機酸はリン酸です。
🔥 焙煎中の酸の変化
- リンゴ酸(緑)
→ 100〜160°Cあたりで減少。160〜180°Cで加速度的に減少。 - クエン酸(オレンジ)
→ 160°C前後から徐々に減少し、190°Cあたりで存在感が弱くなる。 - リン酸(青)
→ 160〜180°Cあたりでピークを迎え、深煎り(200°C〜)でもある程度残る。 - 赤い縦線(176°C)
→ 改造ディスカバリーでの1ハゼ温度を示しています。だいたい170℃から180℃の間でハゼが鳴り始めます。高精度のプローブと豆温度を正確に測れる位置へ的確に設置しこれを基準に、酸のバランスや狙う焙煎度を調整できます。ノーマル機の場合はプローブ位置がかなり上方に設置されておりこれよりもかなり高温になります。焙煎機によって、または豆量によって温度帯はまちまちですが、科学的には1ハゼの豆の温度帯はこの辺り。
生豆に含まれる各種の酸は加熱により減少していきます。焙煎を初期段階のドライングフェイズ、中間のメイラード、終盤のデヴェロップメントの3段階に分ける工程です↓。
焙煎中におけるリンゴ酸・クエン酸・リン酸の変化を最新の科学知見を基にAIで模式的に生成したグラフを基にしています。焙煎は如何に酸の減少を温度帯ごとに把握し美味しい酸を的確に残すかがポイントになります。
クエン酸回路について
珈琲豆を鑑定する時は、定められたフォーマットに従って点数をつけますが評価の高い珈琲は如何に良質な有機酸を多く含むかも高得点につながってきます。有機酸は主にクエン酸とリンゴ酸ですのでそれらは上図(RASTING ACID CURVE)に示すように生豆に多く含まれています。生豆に含まれる酸や糖分は珈琲の木の成長過程において光合成によって生成されます。有機酸の生成はカラブサイクル或いはTCAサイクルなどと呼ばれます。カラブサイクルはクエン酸の生成として人間の体内でも行われています。
クエン酸(citric acid)やリンゴ酸(malic acid)の生成自体は、人間の体内(ミトコンドリア)でも行われます。しかし、その役割と生成の起点は植物(珈琲チェリー)と人間とで大きく異なります。
🔬【珈琲チェリーの場合:】
植物であるコーヒーチェリーでは、クエン酸やリンゴ酸は主に「炭酸固定」+「有機酸の合成」の過程で生成されます。重要な点は:
- クエン酸・リンゴ酸は果実の「酸味」や「成熟度」に関与。
- 起点は光合成で得た糖(グルコースなど)。
- 糖は解糖系を経てピルビン酸になり、ミトコンドリアで**クエン酸回路(Krebs cycle)**に入り、有機酸が生成される。
- ただし、植物では一部の有機酸(特にリンゴ酸)は「蓄積物質」として働き、pH調整や浸透圧調整にも寄与する。
🌱つまり、植物では<strong”>光合成が出発点であり、カラブサイクル(Krebs cycle)は「酸の生成=目的」に近い役割も担います。
🧬【人間の場合:】
人間を含む動物は、クエン酸・リンゴ酸を**「エネルギー代謝の中間産物」として一時的に生成**しますが、それを「蓄積して酸味に使う」ことはしません。
- 食事で摂取した糖(または脂肪、アミノ酸)→解糖系→ピルビン酸→ミトコンドリア内の**Krebs cycle(TCA回路)**へ。
- クエン酸やリンゴ酸はカラブサイクルの中間生成物として一瞬生成され、次々と代謝されて**ATP(エネルギー)**に変換されます。
🧍♂️つまり、人間では**Krebs cycleは「エネルギー生成=目的」**であり、酸を蓄積することはありません。
✅まとめ表:
特徴 | 珈琲チェリー(植物) | 人間(動物) |
---|---|---|
酸の主な役割 | 酸味・pH調整・貯蔵 | エネルギー代謝の中間産物 |
クエン酸・リンゴ酸の起点 | 光合成由来の糖 | 摂取した糖・脂肪・アミノ酸 |
カラブサイクル(Krebs Cycle)の目的 | 酸生成・一部エネルギー供給 | ATP(エネルギー)生成 |
酸の蓄積 | される(果実の味や成熟に関与) | されない(速やかに代謝される) |
クエン酸やリンゴ酸、リン酸がどんな味がするのかが体験したい方は、カッピングフレーバー教室をどうそ↓。
クエン酸回路は薬学系の動画でわかりやすく解説されていましたのでどうぞご覧ください↓。
これまでの説明で珈琲とは如何に美味しい酸を引き出すかが重要かおわかりいただけたでしょうか?ロースティングカーブではどのポイントで酸が減少するのか、ネガティブな酸が出てしまわないか火加減を見極めています。豆の密度や水分量、硬さ、分量、精製ごとに焙煎していたとしても、室温や湿度、気圧ごとにも違ってきますので、焙煎というものは毎回実験データとして蓄積、カッピングしていく地道な作業となります。
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