🔬 キナ酸とは?
キナ酸(Quinic acid)は、コーヒーの味や香り、そして口当たり(アフターテイスト)に影響する重要な有機酸のひとつです。
キナ酸(Quinic acid)の化学式は:
C₇H₁₂O₆
🔬 基本情報
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 分子式 | C₇H₁₂O₆ |
| 分子量 | 約192.17 g/mol |
| IUPAC名 | (1S,3R,4S,5R)-1,3,4,5-Tetrahydroxycyclohexane-1-carboxylic acid |
| 分類 | ヒドロキシカルボン酸(有機酸の一種) |
| 味の特徴 | 軽い酸味+やや渋み |
| 出現 | 主にクロロゲン酸の熱分解産物として出現 |
🧪 構造の特徴
- シクロヘキサン骨格(六員環)
- 水酸基(–OH)が4つ
- カルボキシル基(–COOH)が1つ
つまり、高い親水性+酸性で、コーヒー抽出時にもよく溶け出します。
☕ コーヒーでの役割
| 要素 | 影響 |
|---|---|
| 焙煎 | クロロゲン酸の熱分解でキナ酸が生成 |
| 味わい | 酸味に輪郭やシャープさを与える |
| 過抽出時 | 渋みや収斂感の原因にもなりうる |
| 深煎り時 | 分解が進んで減少し、苦味主体に切り替わる |
🎓 ポイント
- 「キナ酸は酸の芯をつくる下支え役」
- 「シャープな酸味とドライな後味の裏には、たいていキナ酸がいます」
- 「浅煎り×高温抽出で“酸っぱ渋い”と感じたら、キナ酸の主張が強いかも」
- 単体ではあまり注目されませんが、実はクロロゲン酸の一部です
→「カフェ酸 + キナ酸 = クロロゲン酸」 - 焙煎中にクロロゲン酸が分解されることで、キナ酸が遊離して現れてきます。
🔥 焙煎中の変化
- クロロゲン酸はおおよそ 170〜230℃の間で熱分解され、
- カフェ酸(Caffeic acid)とキナ酸(Quinic acid)に分かれます
\ 焙煎が進むほどキナ酸は「自由に」なっていく! /
☕ 味への影響
✅ 浅煎り〜中煎りでのキナ酸の特徴
| 要素 | 影響 |
|---|---|
| 味 | 酸味の中にほのかな渋み・えぐみ |
| 口当たり | 酸の輪郭を与え、後味のキレに貢献 |
| 余韻 | ややドライで、フローラル系の明るさをサポート |
→ 単体ではあまり強い風味はないけれど、「酸の芯」や「味の輪郭」を支える重要な存在です。
😬 キナ酸が悪目立ちするケース
- 浅煎りでの過抽出(湯温が高すぎ、または時間が長すぎ)
- 軟水 × 高温抽出などで収斂味や舌の裏に残る渋みが出やすくなる
→ これは「クロロゲン酸由来のキナ酸が強調された状態」です。
✅ 抽出におけるコントロール法
| 条件 | キナ酸の出方 | 味の変化 |
|---|---|---|
| 湯温高すぎ | 過剰に出る | 渋み・エグミが増す |
| 湯温低め | 適度に抑えられる | まろやかな酸、透明感が出やすい |
| 軟水使用 | キナ酸がやや強調 | 酸が前に出る |
| 硬水使用 | 酸がまろやかに感じる | バランス良い印象に |
✍️ アドバイス
- 「キナ酸は酸味の骨格を作ってくれる成分です」
- 「浅煎りが酸っぱくてイヤな人は、キナ酸の出しすぎが原因かも」
- 「適温・適水で抽出すれば、キナ酸が美しい酸の輪郭に変わります」
キナ酸のうち、珈琲生豆には、カフェオイルキナ酸(CQA)、フェルロイルキナ酸(FQA)、ジカフェオイルキナ酸(di-CQA)が含まれており、キナ酸誘導体(CQA、FQA、di-CQA)と呼ばれます。これらはクロロゲン酸類(CGA類)に分類されるフェノール化合物で、コーヒーのフレーバーに与える影響は焙煎度によって大きく変わります。以下に、サンプルロースト(浅煎り)、中深煎り、深煎りの焙煎段階ごとに、CQA(カフェオイルキナ酸)、FQA(フェルロイルキナ酸)、di-CQA(ジカフェオイルキナ酸)の熱変化とフレーバーへの影響を整理してみます。
🔸サンプルロースト(浅煎り)
● 含有量
-
CQA / FQA / di-CQA:いずれも高濃度で残存。
-
特に5-CQA(クロロゲン酸の主要構造)が最も豊富に存在。
● フレーバーへの影響
-
酸味(chlorogenic acidity):明るい酸味、柑橘や青リンゴのような印象。
-
わずかな渋み・青さ:未変性のCQAやFQA由来のハーバル、グリーン感。
-
後味に残るわずかな収斂味(アストリンジェンシー)。
● 特徴
-
生豆の個性がよく出るが、未熟な豆ではネガティブに働く可能性も。
-
サンプルローストではCQA類の「素材本来の印象」が最も現れやすい。
🔸中深煎り
● 含有量
-
CQA / FQAは加熱分解や異性化によって部分的に減少。
-
di-CQAは比較的熱安定性が高く、少量残存する傾向。
● フレーバーへの影響
-
酸味のまろやかさ:CQAが減少し、酸の質が「クエン酸系→乳酸系」に移行。
-
香ばしさの発展:CQA/FQAの熱分解産物が「フェノール類(例えば、カテコール、フェルル酸誘導体)」に変化 → ローストナッツ、キャラメル香。
-
ボディ質感の向上:ポリフェノール分解物の重合により、口当たりが厚く感じられる。
● 特徴
-
バランスが良くなり、酸・甘味・コクが調和。
-
多くのスペシャルティコーヒーが狙う煎り具合。
🔸深煎り
● 含有量
-
CQA / FQA / di-CQAはほぼ完全に分解。
-
分解生成物:フェノール類、キノン類、そして炭化成分に。
● フレーバーへの影響
-
苦味とスモーキー感:CQAの熱分解により生じるキノン類やフェノール誘導体が「焦げ感、黒糖、炭っぽさ」をもたらす。
-
酸の消失・ボディの減退:クロロゲン酸が減ると同時に酸味も後退し、ボディは分解され軽くなることも。
-
後味にやや渋み:重合ポリフェノールによる「持続的な苦渋み」が感じられる。
● 特徴
-
クロロゲン酸類は苦味・香ばしさの源として貢献。
-
「スモーキー」「ビター」「リッチ」など、焙煎由来の特徴が全面に出る。
🔹まとめ:焙煎度とCQA・FQA・di-CQAの関係
| 焙煎度 | CQA / FQA / di-CQA | 主な変化 | フレーバーへの影響 |
|---|---|---|---|
| 浅煎り | 高濃度 | 酸味・グリーン感 | 明るくフレッシュ、時に渋み |
| 中深煎り | 中程度 | 熱分解・異性化 | ナッツ感・酸のまろやかさ・ボディ |
| 深煎り | ほぼ消失 | フェノール・キノン生成 | 苦味・スモーキー・余韻の重み |